つぶやき

データセンター用HDDを30%大容量化する技術を開発  ─ 磁気ヘッド位置決め誤差を大幅に低減し、記録密度を改善 ─

データセンター用HDDを30%大容量化する技術を開発  ─ 磁気ヘッド位置決め誤差を大幅に低減し、記録密度を改善 ─

東京都市大学

 東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)理工学部 機械システム工学科の藪井 将太准教授らは、データセンター向けハードディスク駆動装置(以下、HDD )を現行から30%大容量化する技術を開発しました。

 近年、パソコンやスマートフォンの記憶装置では、ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)が主流となっておりますが、大量のデータを保管するデータセンター向けでは現在もHDD が主流を占め、今後もこの傾向は続くとみられています。また、高速通信規格「5G」やクラウドサービスの普及によりデータ流通量は増加の一途となっていることから、大量のデータを保管するデータセンターでは、HDDの大容量化に向けた要望が高まっています。今回開発した技術は、ディスクにデータを書き込み・読み出しする磁気ヘッドの位置決め精度を改善することにより、HDDの単位面積当たりの記録密度を増やすことを可能にするものです。HDDの大容量化が実現すれば、一層効率的なデータセンターの運営が可能となり、消費電力の低減を含むコストの削減が期待されます。

 今後は将来的な実用化に向け、HDDメーカーとの連携をはかっていく予定です。なお、これらの研究成果は2月18日(金)からオンラインで開催されたIEEE 17th International Conference on Advanced Motion Controlにて発表しました。

本研究のポイント

  • 磁気ヘッドの位置決め精度向上により、HDDの記録容量を増大化

  • 最新のHDDに搭載しているアクチュエータに応用可能な制御系を提案

  • HDDの必要台数を減らし、データセンターの消費電力低減に貢献

概要

 東京都市大学 理工学部機械システム工学科の藪井 将太准教授らは、千葉工業大学工学部の熱海 武憲教授らと共同で、インターネットのデータセンター用ハードディスク駆動装置(HDD、図1)のデータ記録容量約30%増につながる技術を開発しました。本技術は、ディスクにデータを書き込み・読み出しする磁気ヘッドの位置決め精度を改善することで実現しました。今後はHDDメーカーに技術を紹介し、実用化を目指す予定です。

 パソコンに搭載するデータ記憶装置のシェアはすでに半導体のフラッシュメモリー数十個で構成するソリッド・ステート・ドライブ(SSD)がHDDを抜いています。一方、価格や信頼性、消費電力の面で現在もデータセンターではHDDが主流で、今後もこの傾向は続くとみられています。さらに、情報化社会の発展に伴ってインターネットで行き交うデータは増え続け、データセンターにはより多くのデータを蓄積する必要性が高まっています。HDD1台に記憶できるデータ(記録容量)が増えれば、それに伴ってデータセンター全体で処理できるデータも比例して増えます。また、HDDを利用する暗号資産などが誕生し、2021年7~9月期に大口需要家向け価格が値上がりするなど、その需要は健在です。

図1 HDD

 研究チームは、ディスク上の1bitあたりの物理サイズを低減するべく、ヘッドの位置決め制御系に着目しました。HDDのディスクサイズ(2.5in or 3.5in)で規格化されているため、記録容量を増大するには、ディスク上の記録密度を増やさなければなりません。ディスクには磁性体が塗布されており、その極性で0と1の情報をもたせています。この極性情報のコントロールと読み取りは磁気ヘッドによって行われており、磁気ヘッドの位置決め精度により、1bitのサイズが決まるため、記録密度を増大するためには位置決め精度を向上させる必要があります。磁気ヘッドはボイスコイルモータとピエゾ素子を用いた2つのアクチュエータで制御されていますが(図2)、このたび、これらの制御性能を最大限に引き出すコントローラを設計しました。その結果、現行のHDDの位置決め精度は数ナノメートルオーダーと既に非常に高い精度ではありますが、研究チームは現行の精度と比較して約30%向上させることに成功しました(図3)。

 現行のHDDの最大記録容量は18TB~20TBですが、本技術を応用することで25TB程度まで増大できる見込みです。これは、身近なところだと4K放送の動画を1,600時間録画できる要領です。また、データセンターの消費電力が問題となっていますが、HDDの記録容量が増大することで稼働台数が減少し、消費電力の低減にも貢献できる見込みです(図4)。

 今回の成果はIEEE Transactions on Magneticsに掲載され、2月18日(金)からオンラインで開かれたIEEE 17th International Conference on Advanced Motion Controlで発表しました。

図2 磁気ヘッドを制御するアクチュエータ

図3 磁気ヘッドの位置誤差信号

図4 現時点でのHDD容量とデータセンターの
消費電力の関係

研究の社会的貢献および今後の展開 

 本研究では、HDDの磁気ヘッド位置決め精度を向上可能な制御系を開発しました。磁気ヘッドの位置決め精度を向上することで、HDD1台あたりの記録容量を増大することができます。近年、データセンターにおいてHDDの稼働のための消費電力が問題となっていますが、記録容量を増大することで必要な稼働台数が減少し、消費電力の低減に貢献できます。また、身近な場面だと外付けHDDを用いた動画の録画時間が延び、暗号資産の増大に繋がるなどの利点があります。

 一方で、HDDの記録容量の増大は今後も要求されていくと予想されるため、更なる高精度制御の設計方法の開発が望まれます。また、研究段階ではありますが、熱アクチュエータを加えた4段アクチュエータ方式のHDDも開発されています。将来的な実現に向けて、4段アクチュエータ方式の制御系設計も必要になると考えられます。

共同研究者

千葉工業大学 工学部 熱海 武憲 教授


<取材申し込み・お問い合わせ先>
企画・広報室(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)

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